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市民の力で共生の世紀を創り出すために 提言

(2001年6月14日)

<目次>
はじめに
1. 21世紀の社会におけるボランティア・市民活動
(1)  21世紀の社会のありようとボランティア・市民活動
(2) ボランティア・市民活動を社会的に推進する考え方
(3) ボランティア・市民活動にかかわるものの責任
(4) ボランティア国際年にあたって

2. ボランティア・市民活動の推進の目標と課題
(1) 多くの人々が当たり前のように活動に参加できる社会となるために
(2) 子どもたちと共に新しい社会を創造するために
(3) 市民セクターと行政、企業セクターとの建設的な協働のために
(4) ボランティア・市民活動の発展基盤の整備のために
  1. ボランティア・市民活動への仲介支援機関と行政とのかかわりについて
  2. 寄付を促進するための取り組み
  3. ボランティア・市民活動の健全な発展を促進する法制度・税制度について

 

はじめに

 これまで長い間、ボランティア活動は一部の人の関心ごとであり、また、ボランティア・市民活動が発展するために社会的基盤を整備する必要があるという考えはあまりなかったといえます。
 
 しかし、わずか10年程度の間に、7割近くの国民が活動への参加を希望するようになり、また、ボランティア・市民活動の発展を支える法人制度や支援税制の創設、中央政府及び自治体による協働・支援策の展開が見られるようになるなど、わが国社会のボランティア活動をめぐる環境は大きく変りました。
 
 この提言は、ボランティア国際年であり、新たな世紀の始まりの年である2001年に、日本で活動推進にかかわる者としての立場から、国内及び他国のボランティア活動にかかわる、あるいはこれからかかわろうとする人々に向けた発信です。そして、次のような目的をもちます。
 
 第一に、この21世紀が一人ひとりの尊厳が守られ、誰もが希望をもって生きていくことのでき、個人や地域、そしてまた文化の多様性を尊重しながら共生できる社会となるために、ボランティア活動の価値と可能性を認め、その力を高めていくことを呼びかけるものです。
 
 第二に、ボランティア・市民活動の発展のために中長期的には何を目標とし、そのために何を推進課題として取り組んでいくべきかを提起することです。
 
 第一の点は、他国のボランティア・市民活動推進にかかわる人々とも共有できるのではないかと考えます。第二の推進課題は主に日本国内での課題を取り上げていますが、わが国社会の固有の性質をもちながらも、その基本的な問題意識については、やはり他の国々においても多くの場合に共有し得るのではないかと考えます。
 
 21世紀には、あらゆる国々でボランティア・市民活動は今よりももっと大きな役割を果たす必要があり、またそうできる方向に力量を高め、社会のありようを変えていく必要があります。この提言が国境をこえた協働が広がる契機の一つとなることを願います。

▲UP

 

 

1.21世紀の社会におけるボランティア・市民活動

 ここでは、21世紀の社会を地球規模で考えた時に私たちが直面する課題の解決に向けて、ボランティア・市民活動はどのような可能性をもつのか、人々の暮らしと社会に何をもたらし得るのかを確認します。

(1) 21世紀の社会のありようとボランティア・市民活動

【ボランティア・市民活動がもつ意味】
●21世紀に直面する課題
 
 21世紀はどのような社会となり、私たちに何を問いかけるのでしょうか。
 
 情報技術を始めとする新しい科学技術の進展は私たちに新たな恩恵をもたらすかもしれません。
 
 しかし、環境問題や国際的な経済格差、人口問題などは、持続可能な社会とするためのライフスタイルを確立する課題を私たちにつきつけています。
 
 国境を越えた経済活動、情報の流通などにより、既存の伝統社会、文化、国家という枠組みもゆらいでいます。それは価値観の多様化を促し、自由を高める可能性のある一方で、アイデンティティの動揺、社会の不安定化や対立をももたらします。そして、各種の民族や宗教的対立も深刻化しています。
 
 また、遺伝子工学や治療技術の進展により私たちは長寿を享受できるかもしれませんが、同時に生命体としての倫理・限界、生きる意味をどこに見出すかなどの問にも突き当たるでしょう。
 
 いずれにせよ、私たちはこれまで経験したことのない大きな課題に直面することが予測されます。

●既存システムの限界
 
 これまでは、伝統的な共同体を解体し、そこで営まれてきた社会的諸機能から政府、経済市場などのシステムを作り出すとともに、社会の分業化を進めることで、大規模・効率的に社会のニーズを満たし、経済的な繁栄や便利さを手にすることができたと考えられます。
 
 しかし一方で、システムが肥大化あるいは専門分化するにしたがって、個々人の役割は細分化され、生活経験が断片的になってしまいました。そのために、個々人が達成感を得ることや、システムに人々が参加して統御することが困難となったり、人任せになってしまうという弊害も明らかになりつつあります。
 
 21世紀に私たちが直面する課題は、その解決を誰かに任せることはできません。一人ひとりが、自分と向き合い、他者とのつながりを回復し、生活の全体性や自律性を回復して、共に立ち向かうべき課題を共有できるかが問われているといえます。

●21世紀は人々の自立と連帯の力によって、誰もがかけがえのない存在として尊重され、共生できる世紀に
 
 21世紀は、誰もが健康や安全を手にすることができるだけでなく、個々人が精神性をもつかけがえのない存在として尊重され、誇りや尊厳をもってその人らしく生きていくことのできる世界であってほしいものです。また、地域の自治、文化の多様性を互いに尊重しながら、共生することのできる世界となるよう希望します。
 
 多様化した社会では、人々が分断され、対立しあう状況に陥ったり、人間同士の関係が希薄化し、地域で孤立してしまうことも見られます。
 
 ボランティア・市民活動には、個々人が自分の責任で判断し、行動する力を養うとともに、人と人を結びつけ、支え合う力、問題解決する力を高め、個の尊重と多様性を基調とした共生の文化をつくりだす方向に社会を向けていく役割・使命があります。

【ボランティア・市民活動は暮らしと社会に何をできるか】
●人と人とのつながりを深め社会のきずなを強化する
 
 ボランティア・市民活動は人と人とのかかわりあいを深めます。それは人として暮らしていくうえでかかすことのできない、互いの結びつきを深め、一人ひとりが孤立することや排除されることのない地域社会をつくりだします。そして、それが見ず知らずの他者にも開かれることによって、社会全体のきずなを強化します。

●人々の共感力を高め一人ひとりの尊厳を大切にする方向に社会を進める
 
 人は人とかかかわりあうことで社会と結びつき、また、他者から大切にされ、認められることで自らの存在を確かなものとします。そして、この経験の積み重ねが、他者の困難に痛みを覚え、手を差し伸べる共感力、よりよい社会を共にめざす連帯力を育みます。
 
 ボランティア・市民活動は人と人とのかかわりをつくりだし、共感し、連帯する力を高めることで、一人ひとりの尊厳を大切にしあう方向に社会を向かわせます。

●新たな社会的価値と生きがいを生み出す労働機会を創出し誰もが誇りをもてる社会をつくる
 
 ボランティア・市民活動は、どのような人でもそれぞれの価値観やライフスタイルにあった、その人なりの活動をすることを互いが認め合いながら、一人ひとりがもてる力を発揮して社会のさまざまな課題の解決、サービス提供に従事できる新しい価値と生きがいを生みだす労働機会を提供します。
 
 このことによって誰もが社会から必要とされていることを実感でき、誇りをもって暮らしていける社会を創り出します。

 人々がボランティア・市民活動に参加し、自ら責任をもって社会的なサービスを生産するなかで、知識や情報だけでは得ることのできない多くのことがらを学習します。
 
 あまりに複雑に専門・分業化の進んだ現代社会では、個々人の限られた経験以外の社会の現実に人々が生身の実感をもってふれる機会はむしろ少なくなっています。しかしそれでは環境問題、少子高齢化問題など、一人ひとりが我がこととしてとらえて社会全体で対処すべき大きな問題の解決にむかう英知や力は生まれてきません。
 
 ボランティア・市民活動は、さまざまな社会課題にぶつかる生きた学習の場を人々に提供し、人々の問題解決力を高めます。

●社会の漸進的な発展を促す
 
 介護サービスなどは典型例の一つですが、現在、行政サービス、経済市場ベースで提供されているものの多くは、ボランティアなどの草の根の実践として始められ、そこでノウハウや一定のニーズが検証された後に、行政や企業のサービスとして制度化・確立されたものが数多くあります。
 
 ボランティア・市民活動は、潜在するさまざまな社会の問題にいち早く対応し、それを顕在化させ、その解決システムを実験的につくりあげることで、社会の漸進的な発展を促します。

●自律・自治の気風とやりくりの知恵を高め持続可能な社会をつくる
 
 ボランティア・市民活動は、人々がいろいろな特技を出し合い、出せるもの、あるものをやりくりしながら、できるだけ無駄の少ない方法で問題に対処する知恵を育みます。
 
 また、市民が自分たち自身で種々の社会的問題解決に取り組む自律・自治の気風を高め、自分たちでできることは必要以上には行政サービスや経済市場に外部化させないよう社会を方向づけます。
 
 この結果、社会の持続可能性を高めます。

▲UP


 

(2) ボランティア・市民活動を社会的に推進する考え方

【なぜボランティア・市民活動の発展に社会的コストをかけなければならないか】
●無形の資産は意図的に保持されなければ失われる
 
 ボランティア・市民活動の働きの効果は、決して短期間で特効薬的にあらわれるのではなく、長い時間をかけて徐々に効果が蓄積されていくだけに、その働きが見えにくいといえます。
 
 また、かつて自発的な相互扶助や地域の自治活動は、何もしなくても空気や水のように当たり前のように行われ、文化として存在していたものであるために、自発的な活動を保持するために社会的にコストをかけることへの理解は得られにくくなっています。
 
 これらの活動は、社会的には欠かすことができない機能を担っているのですが、その働きに直接手を触たり、金銭に換算したりしてわかりやすくとらえることがしにくく、また自然に営まれるものであるために必ずしもその価値が明確に意識化されているとはいえない無形の資産といえます。それだけに失われやすいものでもあります。
 
 あらためてこれら自発的な活動のもつ問題解決の力に着目し、新しい役割をもつものとして意図的に保持・発展させていくことが必要です。

●自発的な力を育てる社会的な取り組みが必要
 
 ボランティア・市民活動をしている人の誰もが強い社会改革への意思や使命感をもっているというわけではありません。むしろ普通の人々が、たまたまの出会いや小さな疑問から何かに取り組み始め、一つ一つの問題を解決していくうちに、いつのまにか自分たちでも思いもよらなかった大きな役割を果たしていたということが普通に見られる姿です。
 
 みなで知恵を出し合って少しずつ問題を解決することで手応えを実感でき、活動の大切さが周囲や関係者から認められることで、大きな力をもった活動になることができます。しかし一方には、成果が実感できず、あるいは周囲から認められなかったために息切れし、潰えてしまった幾多の活動があります。
 
 自発的な力は小さな成功経験を重ね周囲から認められることで少しずつ強まっていきます。自発性は損なわれやすく脆いものです。自発的に勝手にやるのだからなすがままにし、それで生まれてこないのであれば仕方がない、と考えていたのでは決して自発的な力を強めることはできません。

【活動の社会的効果についての評価】
●多様性そのものを評価する
 
 活動の効果に対する評価にあたっては、多様であることそれ自体を評価し、多様な試みや実践を尊重することが必要です。
 
 一つ一つの活動実践を見ると、理念や価値観、目的が極めて多様で、その価値観に共感できない人からみれば目的がわかりにくいことも当然ありえます。
 
 また、直接活動の目的と意識されていることよりは、活動を通したつながり自体に価値があり、それがあることで地域の絆や活力が保たれ、その他の社会的問題の発生を未然に防いでいることも多くあります。つまり、直接的な効果とは別の部分に真の価値があるということも多々あるのです。
 
 しかし、多様であるからこそ多彩な試みが行われ、多様な市民のニーズに応えることができ、人々の暮らしの豊かさに欠かせないサービスや文化として残っていくのです。多様であることそのものに基本的な価値を置くことが重要です。

●社会的効果を評価する指標を開発する
 
 ボランティア・市民活動の効果をどのような物差しで計るかは重要です。
 
 ボランティア・市民活動は多様なことそのものに価値があるため、一面では、直接的な効果とは別の観点から、多様性を保持することそのものにも一定の資源を投下しつづけることも必要です。しかし、やはり社会的な財を投与される以上は、直接的な効果そのものも明かにする責務があります。
 
 これまでボランティア・市民活動の社会的効果を明らかにするための十分な科学的指標は開発されていませんでした。今後、さまざまな実証的な研究が行われ、科学的な評価方法が開発されることが望まれます。
 
 その際は、人々の意識(社会的有用感/生きがい/社会への信頼感/地域社会への愛着/社会的課題への関心度など)や行動(近隣の相互扶助活動や社会活動への参加/寄付行動)の変化、新たに創出された財・サービスやそれに対する市民の評価、ボランティア・市民活動のサービスと行政・企業サービスとの代替関係も含めた社会的コストの分析など、多角的・複合的な視点からの評価が必要です。

▲UP

 

 

(3) ボランティア・市民活動にかかわるものの責任

●一人ひとりの願いやその人らしくあること−個の原理を大切にする
 
 この活動が一人ひとりの人から出発し、絶えずそこに立ち返るべきことを確認したいと思います。
 
 この活動が手を差し伸べるものは、一人ひとりの人の願いや夢であり、あるいは痛みや苦しみです。多くの場合それは声無き声といわれる小さなものです。ここに、暮らしのなかでふと何かをしたいと思い、より自分らしくあることをもとめて活動にかかわっている一人ひとりのごく普通の人々が共感し、寄り添うことができるから、人々を勇気づけ、支え手の輪が広がります。
 
 活動において社会的な課題や問題が発生する背景となる構造をとらえる視点や、そうした大きな課題に向かうことは大切ですが、それを支えているのはあくまでも一人ひとりの願いであり力です。誰もが楽しく、自分らしく、いきいきしていることが大切です。個の視点を見落とすとボランティア・市民活動ならではのよさが失われてしまいます。

●個々人の力と組織の力とのいずれも大切にする
 
 ボランティア・市民活動の担い手は、個人に着目すればボランティアも有給スタッフもあり、組織に着目すれば、サークル的なグループ、規約や運営体制を備えた任意の組織体、法人など種々の形態があります。そして、個々人がどのような活動へのかかわり方を選択し、どの組織に参加するか、組織がこれらの担い手をどのように編成して活動・事業を展開するかは無数の組み合わせが可能です。
 
 大切なことは、このいずれかがいずれかよりも優れているということではないことです。
 
 グループで活動することによってメンバー同士で活動の成果を分かち合い、学習を深めたり、それが組織的にシステム化されていけば個人のボランティア活動にはできないことができるようになります。
 
 しかし、組織としてシステム化されるがゆえに柔軟性が損なわれたり、個人の決断で負えるリスクが負えなくなることもあります。システムや事業に縛られてしまってもともとの活動への思いから離れてしまい、そのために活動へのエネルギーが弱まってしまうこともあるのです。
 
 また、有給職員とボランティアに能力や専門性で大きな違いがあるわけではなく、その違いは、むしろ職務責任や継続性、職業倫理が求められるかどうかという点にあります。
 
 個人の力と組織の力は互いに補い合い、高め合うものとなることが大切です。

●セクターの違いや地域を越えて戦略的に接点をつくり協働を進める
 
 自分たちの価値の実現をめざし、より大きな取り組みの輪を広げるためには、ボランティア・市民活動にかかわるものとして積極的に情報を発信し、セクターの違い、国境などを越え、協働していくことが大切です。
 
 どのような活動であっても、命や人権を大切にし、どのような人もその人らしく生きることができる社会をつくるという目標に向かって活動しています。またセクターが違ったとしても共有できる目標はあるはずです。
 
 自らの価値を信ずるあまり、いたずらに対立する者を排撃するばかりでは、かえって社会的な支持の広がりを得にくくなります。柔軟に戦略を考え、互いの接点を見つけ、より大きな目標の実現に多くの人々の力と行動を引き込んでいくことが大切です。

●市民の力量を高める場としての市民セクターの役割
 
 市民がどのような社会のありようを望むのかは、ボランティア・市民活動(市民セクターの活動)で市民が実際に社会的なサービスを生産・消費し、社会的役割を果たした実体験を通した学習の質によって大きくかわります。市民の意識・行動の方向に影響を与える場所に、市民セクターはあるのです。
 
 ボランティア・市民活動にかかわるものには、市民の立場からもっとも望ましく、質の高い選択肢を提供することで市民の支持を広げ、自分たちの特質を説明し学習活動を重ねることで市民の主体的力量を高める役割があります。
 
※市民セクター
 この提言で「市民セクター」という場合には、ボランティア・市民活動など市民の自発的な意思により、市民が主体的に行う活動を、社会的な一つの領域としてとらえ、行政セクター、企業セクターと並ぶものとさします。意味は、民間非営利セクター、NPOセクター、第三のセクター(第三セクターではない)などと言われているものとほぼ重なりますが、市民セクターという表現では、幅広い市民の主体的参画によってつくられるという側面がより強調されています。
 
※市民セクターと他のセクター
 セクター間の関係を考える時重要なことは、一人ひとりの市民はいくつものセクターにそれぞれ違う顔でかかわりもち、あるいはこれらのセクターに織り込まれた存在であることです。  行政に対しては納税者、サービスの受益者、住民・国民であり、企業に対しては株主、消費者、従業員です。そして市民セクターではサービスを提供したりささえる生産者・当事者であり、受ける受益者という2つの側面を同時にもちます。  このことから、セクター間のバランスは、一人ひとりの市民がどのように振舞うかで大きくかわるといえます。多額の税金を払っても行政サービスの拡大を望むのであれば、経済市場、市民セクターの役割は小さくなるでしょう。また、市民が株主・消費者・従業員として社会に貢献する企業のあり方を求めるのであれば、企業はかわるでしょう。

▲UP

 

 

(4)ボランティア国際年にあたって〜各国文化の独自性・多様性を踏まえつつ世界的な普遍性をもったボランティア文化の確立をめざす

●ボランティア国際年をグローバルな共生の文化を創り出す契機に
 
 ボランティア・市民活動にかかわる人々には、地球市民としてグローバルな共生の文化を創り出す役割があります。
 
 今日、世界的な相互依存関係が深まり、世界はまさに一つの共同体となっていますが、貧富の差がさらに拡大したり、資源浪費的な生活・消費活動による地球環境の悪化が進んだりという、グローバル化による負の側面も見られます。
 
 ボランティア活動は、命や人権、その人らしくあることを大切な価値観とし、それを実現するため個々人が何をすべきか考え、行動するものです。この価値、志を共有できる人々は、積極的に情報を発信し、国境やセクターの違いを越え、協働していくことが大切です。
 
 ボランティア国際年は、各国独自のボランティア活動の文化を花開かせると同時に、国境を越えた協働を広げるチャンスといえます。

●日本社会とボランティア・市民活動
 
 わが国には「お互い様」「社会への恩返し」あるいは「奉仕」などの意識にたつ助け合い活動の伝統が脈々とありました。
 
 ボランティア活動という言葉が導入されたのは第二次大戦前後といわれています。外来語として受容されたボランティア活動は、その新しい響きあるいは個々人の自由や自立と連帯を強調する考え方ゆえに、社会参加の欲求や社会的な問題意識をもつ人々をひきつけ、社会的な活躍の場を提供してきました。同時に、伝統的な助け合い活動とも徐々に融和し、日常生活への草の根の広がりや定着も進みました。
 
 90年代前後からは、助け合い活動を組織化し、社会的な責任をもつ事業を展開する活動が生まれています。そして、これらを表すために、日本語として独自のイメージをもつに至ったボランティア活動とは別の言葉として、市民活動という新たな言葉が使われ始めました。ボランティア活動と市民活動の実態に大きな違いがあるわけではありませんが、市民活動、NPOなどの言葉がもつイメージによって、これまで地域の助け合い活動にもボランティア活動にも参加してこなかった人々が活動するようになっています。
 
 日本社会は、伝統的なものに新しい言葉や考え方を加えることで、独自のボランティア・市民活動の文化をつくりだす途上にあるといえます。伝統的な助け合い活動が、知り合い同士だけでなく見ず知らずの人に開かれ、さらには組織的な大きな力をもつ可能性のあることを、私たちは災害救援活動や草の根の福祉活動から学んできました。地縁的な自治活動に個人の発意に基づく活動を取り入れる例も増えています。
 
 独自の文化を生かし、新しいものと融合を図りながら、個々人の自発的な意思と協働に基づく社会活動を尊ぶ文化を根付かせていくことが課題です。

▲UP

 

 

2.ボランティア・市民活動の推進の目標と課題

 ここでは、ボランティア・市民活動が、一つのセクターとして日本社会に定着していくうえでの中長期的な目標と、推進課題を取り上げます。
 
 第一の目標として、多くの人々が当たり前のように活動に参加できる社会としていくことを掲げました。また、それと密接に関連し、次代を担う子どもたちの活動参加を支援できる教育のあり方について第二の課題として提起しています。
 
 第三にボランティア・市民活動を社会運営システムの一角を担う一つのまとまり(市民セクター)としてとらえ、市民セクターと行政、企業セクターとの協働のあり方について考え方、課題を提示しました。
 
 第四に活動が発展するための基盤整備をめぐる諸課題を取り上げています。具体的には、仲介支援機関の強化とそれに対する行政のかかわりのありようについて、寄付を促進するための取り組みについて、法制度・税制度について課題を提起しました。

(1)多くの人々が当たり前のように活動に参加できる社会となるために

 ボランティア活動への関心が高まり、盛んになったといわれています。たしかに災害時やイベント時ではボランティアの参加は当たり前になっていますが、統計上は7割近くの人々が機会があれば活動に参加したいとしているのに対し、実際に活動に参加している人は1割程度にとどまっており、このギャップはむしろ拡大しています。
 
 多くの人々が活動に参加できる社会とすることが大きな課題です。

●人々が当たり前のように活動にかかわれる社会をつくる
 
 21世紀の社会は、人々が人生のある時期に、当たり前のようにボランティア・市民活動(市民セクターの活動)にかかわれる社会とすることを目標として掲げたいと思います。
 
 市民セクターにおける活動は、ボランティア、有給職員、障害のある人などさまざまな人々がその持てる力や経験を活用し、または潜在する力を開発し、その人なりきの働き方、貢献をすることを互いが認め合うものです。高齢者や障害者の就労の場としても重要です。
 
 このような社会をつくることは、人々がもてる力を発揮しながら、誇りをもって生きていけることに必ずつながると確信します。

●ボランティア・市民活動に携わった経験がいかされるよう社会の構造をかえていく
 
 ボランティア・市民活動に携わった経験が認められ、評価される社会を創り出すことが必要です。
 
 ボランティア活動を始めとする社員の社会的活動を積極的に推奨している企業からは、活動が社員の社会学習の場となるとともに、周囲から認められることが励みにつながることが指摘されています。
 
 市民セクターの活動に従事することで、社会のニーズの変化に合わせて魅力あるサービスや価値を提案し実験する力や、無駄を省き既にあるものをやりくりしながら必要な部分に十分な手間をかけるセンスも磨かれます。これは、行政や研究機関での仕事はもちろんのこと、企業活動にも活かされると考えますし、さらにいえば21世紀はそれを活かすことが必要な経済社会となっていくでしょう。
 
 このため、雇用やキャリア評価のあり方の変革を進め、セクター間の人材移動が容易になるよう社会構造の転換を進める必要があります。市民セクターへの従事を希望する人々に情報提供をしたり、人材を求める団体とを仲介するセンター機能も必要となるでしょう。
 
 また、必要な質を満たす研修や活動期間の継続性を証明できるなど、一定の要件を満たすボランティア活動プログラムに従事した経験について、社会的資格取得に必要な実務経験と見なすことなども検討されてよいと考えます。こうした道を開くことは、とりわけ若年層の活動参加への誘因を増し、市民セクターに多様な人材がかかわる条件をつくるうえで大きな効果が期待できます。
 
 もちろん、市民セクター側が多様な人材を吸収できる力をつけていくことは不可欠です。

●「ボランティア活動は自分らしさをいかした社会的活動」というイメージをつくる
 
 活動への参加が広がらない大きな要因として、ボランティア活動のイメージにある種の狭さがあること、つまりボランティア活動は「人のために何かする」「直接何らかのお世話の活動をする」ことというイメージが根強くあることが考えられます。
 
 ボランティア活動は一般的には他者のために貢献する活動と理解されていますが、実際には誰かのための一方的な活動にとどまることのない自らの問題としての共感や自治の意識が不可欠です。他方、自らの問題解決のために始められた自助活動も、それが他者のためにも開かれれば、自発的に行われる社会的活動という点でボランティア活動と変わりはありません。
 
 また実際の活動は、直接お世話をするものだけでなく、NPOなどの財源確保活動や組織運営への関与、選挙活動、地域・自治活動などの活動もあり、多様なかかわりが可能です。
 
 今後ボランティア活動を広めるためには、ボランティア活動が自分らしさをいかして自発的に社会的活動をすることと捉えていくことが大切です。

●ボランティアコーディネート業務の確立をはかる
 
 今後は幅広い領域の社会サービスにおいて、今まで以上にボランティア活動プログラムを拡充することが求められます。その際、サービス実施機関とボランティアとが協働し、市民参画ならではの付加価値をもったサービスが創出されるためには、ボランティア活動プログラム開発や評価、研修、調整などを行うボランティアコーディネート(マネジメント)業務を各機関で位置づけ、確立することが必要です。
 
 ボランティアコーディネート業務の確立のためには、資格制度、倫理綱領、研修システムなどが整備されることが求められます。

●誰もが常識として活動についての理解や情報が得られる環境をつくる
 
 市民セクターの全体像やその役割・特性についての知識、活動への参加手段などについて、誰もが常識として身に着けられることをめざす必要があります。
 
 その具体策の一つとして、活動についての基礎的な知識や情報を、学校教育や職場研修などで学べるようにしていく必要があります。
 
 また、商店、公共機関、駅、職場、インターネットなどあらゆる場所で、頻繁に情報が流通し、誰でも日常的に情報にふれ、入手できる状態をつくることも課題です。
 
 マスコミは市民のボランティア活動へのイメージ形成や情報獲得に大きな影響を与えるため、地方紙での地域に密着した活動情報の提供、キャンペーン、世論調査、検証記事などを今後一層期待します。地下鉄、商店などで地域の活動情報が入手できる環境も必要です。
 
 また、日本社会の国際化を踏まえると、今後はさらに情報が多言語で提供されることも求められるでしょう。

活動に参加することは市民としての権利であり責任でもあるという理解を広げる
 
 ボランティア・市民活動への参加は、市民が自らの潜在的な能力を開発し、学習する機会となるとともに、生活に不可欠な豊かなかかわりあいを人々にもたらします。
 
 活動に参加できることは市民にとっての社会的な権利であると考え、活動参加の機会があらゆる人々に提供されることが必要です。
 
 また、活動への参加は権利であると同時に、一人の市民としての責任であるという意識を今後確立していくことが必要です。活動は自発的なものであり決して誰かから押し付けられる義務ではありませんし、活動に参加しないことも権利としては保障されるべきです。しかし、市民としてこの社会に生まれた以上、自ら自発的・主体的にさまざまな社会課題の解決にかかわっていくことは、自らの意思で行うべき責任であるといえるのではないでしょうか。
 
 市民相互の了解のなかで、市民自らがそうした意識を創り出していくことが、今後重要と考えます。

▲UP

 

 

(2)子どもたちと共に新しい社会を創造するために

 子どもや家庭のありようやこれまでみられなかった青少年の事件について、あるいは教育のあり方をめぐって、現在さまざまに議論されています。
 
 現在活動にかかわる者、そして一人ひとりの市民には、ボランティア・市民活動のもつ広がりの力をいかしてもっと教育にかかわり、子どもたちと共にこれからの社会のありようを考え、望ましい未来を創り出していく責務があります。

【基本的な考え方】
市民の自発的参画によって、自らが社会を構成し、参画する主体であることを子どもたちが実感し、体得できる教育をつくりだしていく

 
 子どもであっても、一人ひとりが社会を構成する主体であり社会に参画できることを体感できることが大切です。子どもたちの教育においてボランティア活動、ボランティア体験学習がめざすものはまさにこの点にあります。
 
 そのためには、親や地域の人々を始めとする大人たち自らが、真剣に生きる姿を子どもたちに示し、批判的・建設的に議論を闘わせながら、子どもたちと一緒にさまざまな社会的課題の解決にむけた実践を重ねることが必要です。
 
 ただ学校に任せきりにしたり、体験的学習を義務化したとしても、大人たちが自らすすんで社会課題に取り組む姿に子どもたちがふれなければ、主体的、自発的に社会に参画するというもっとも大切な姿勢を子どもたちが身につけてくれることはかえって期待しにくくなるのではないでしょうか。自発性や主体性は他者のそれに共鳴することによってこそ喚起され、強化されていくものなのです。

●全ての子どもたちがボランティア体験学習・活動に参加できる機会を保障する
 
 ボランティア体験学習・活動を通して社会のさまざまな現実、課題にぶつかり、その解決にむけて人々と協働して取り組む経験によって、社会を担う主体に必要な技量が子どもたちのなかに形成されます。
 
 その教育効果をまとめると、
* 自分と違う価値観、知らなかった生き方があることに気づくこと
* 自分自身を見つめ、自分の大切さに気づくとともに、他の人の大切さ(命の大切さ、人権)にも気づくこと
* 自分を表現し、意見を交わし、共感したり、違いを認め合う社会的技量を磨くこと
* 社会のさまざまな課題に気づき、自らのかかわりを模索すること

といえます。
 
 不登校や学力低下などの問題の根本にあるものは、たんに教えることがらの量の問題というよりは、社会のなかで生きていくことと学ぶこととのつながりが実感しにくいこと、このために学ぶ側の意欲や動機づけが低下したこと、さらには子どもたちが生きることに価値を感じたり、目標を持ちにくいことがあるのではないでしょうか。
 
 ボランティア体験学習・活動を万能薬のようにみなすことは適切ではありませんが、このことへの効果的な対処方策の一つになりうるものです。欧米で市民教育citizenship education、サービスラーニングservice learningなどとして社会的課題解決への実践活動をともなう体験的学習が重視されているのも、同様の背景にあるととらえられます。
 
 ボランティア体験学習・活動に参加できることによってこのような学習機会が得られることは、子どもたちの権利であり、社会的にこのような機会が保障されることは重要です。

●子どもたち自身が活動の意味を考え、企画に参画しながら取り組めるようにする
 
 子どもたちの権利として活動・体験学習の機会が保障されることは重要ですが、実際の実践場面において活動・体験学習がしなければならないものとして子どもたちに一方的に与えられてしまうことは避けなくてはいけません。
 
 同じ体験であっても、しなければならないものとして与えられてしぶしぶ取り組むのと、自ら課題意識をもって取り組むのとでは全く効果が異なります。また表面的なきっかけとして体験に止まることなく、学びが子どもたちに内在化するためには、拒否的感情も含めその子なりきの方法で活動の意味を考え、振りかえり、自ら考えて取り組むという内発的プロセスと、それが繰り返されることが不可欠です。この繰り返しが、批判的に課題を検討する視点や、人々や社会にかかわる責任感を形作るのです。
 
 このため、子ども自身が活動の意味を考え、企画に参画して取り組めること、一人ひとりの子どもたちの関心や学びの過程に応じられるよう多様なプログラムを創り出していくこと、それを側面的に支援し共に歩む大人たちのかかわりが何より重要です。
 
 なお、1998年提言では、実り多いボランティア活動・体験学習とするための実施上の留意点を述べていますが、その原則はかわりません。

●市民がつくりだす教育を教育システムの一つの領域として確立することをめざす
 
 学校での公教育、家庭教育、民間事業者による教育に比べると、地域教育を始めとする市民がつくりだす教育が占める比重はまだまだ小さいといわざるを得ません。しかし、グローバル化・多様化する社会の実相を学べる教育機会を保障していくためには、現実社会の課題にふれ、子どもたち一人ひとりに異なる学習ニーズ・課題に柔軟に対応できる教育システムが重要です。
 
 このような教育システムは市民が主体的に担い、提供することがもっとも相応しいと考えられます。新しい世紀においては、地域社会のなかで、あるいはさまざまな社会の課題に応じて、市民自らが提供する教育プログラムとその提供主体の層を厚くし、教育システムの一つの領域として確立することを、大きな社会的目標として掲げたいと考えます。

【具体的方策】
ボランティア・市民活動団体は教育分野で貢献できることを発信する

 
 今、ボランティア・市民活動を行っている団体には、教育の分野で自分たちができることをまとめ、ネットワーキングを広げ、それをプログラム化して学校などに持ちこんでいくことを提案します。
 
 直接教育分野の活動をしていない団体であっても教育分野で大きな貢献ができます。例えば、自らの活動で出会った人々の暮らしや願い、活動のなかで考えること、自分たちが望むまちの姿などを子どもたちに伝えること、子どもたちの体験学習を受け入れること、学校の活動に参加することなど、さまざまなことができるはずです。
 
 こうした活動を自分たちでだけでするのではなく、他の団体と共に取り組むことができれば、もっと豊かな活動が展開できるでしょう。それは子どもたちのためというだけでなく、活動団体の側もまちづくりへの気付きや新しいヒントを得たり、子どもたちから元気をもらうことで活動への力をだすことができるはずです。

●教育活動に多くの市民が主体的にかかわれる体制・条件を整備する
 
* 住民が学校教育活動に参画するためのコーディネート体制作り

 地域住民がボランティアとして学校教育に参画する学校支援ボランティアの推進にあたっては、たんに住民の知識・経験を学校教育活動に活用するというだけにとどまらず、住民、学校の双方の経験や専門性を組み合わせることで、共に新しい価値や実践を創り出していくこと目標とすべきです。
 
 そのために学校のニーズと、住民の知識・経験、活動ニーズとを結びつけるコーディネーターを配置し、ボランティアへのオリエンテーション、研修や、ボランティアの発意を教育実践に受け止める場作り、調整などが行われることが大切です。
 
 また、学校評議会制度では、ボランティア・市民活動団体の参画が図られるとともに、学校間の垣根をこえた実践・交流活動の促進、地域の課題の共有などが行われる必要があります。
 
* 情報発信・提供体制の整備

 学校教育活動においてどのようなニーズがあるか、住民・ボランティアや受け入れ団体などではどのようなことができるのか、それぞれが情報発信に努めるとともに、これらの情報が集約され、誰もが入手しやすくなる仕組みをつくる必要があります。

* 活動の場・プログラムと拠点の充実

 子どもたちが主体的に意欲をもって取り組める活動・学習プログラムを、質的・量的に飛躍的に豊かにする必要があります。活動を実施し、受け入れ・推進する団体は、教育、商工、農業、環境、まちづくり、国際交流・支援など幅広い関係者と共に多様なプログラムを開発し、子どもたちの活動参加機会の充実を図ることが求められます。
 
 また、学校の空き教室を地域のさまざまな活動やサービス提供に活用し、活動の場・拠点の充実を図ることによって、地域の生活の息吹が学校のなかに持ち込まれ、これらを子どもたちが自然に学べる環境づくりを進める必要があります。

活動・体験学習のための財源を社会的に支え合う
 
 質の高い活動・学習プログラムを展開するためには一定のコストが必要ですが、現状では受け入れ施設の好意や活動団体の努力に委ねられています。しかし、子どもたちの活動・体験学習は、ただ子どもへの学習効果があるだけでなく、まちそのものの活性化につながったり、社会全体に大きな効果を及ぼすものです。この意味から、たんに保護者や一部の機関の責任というだけでなく、活動・体験学習のための費用を多くの人々が出し合い、公的にも下支えされる必要があります。
 
 このため、活動費用への公的助成の拡充や、民間募金(共同募金など)の一部を活動・体験学習の助成へ積極的に振り向けることなどが求められます。

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(3)市民セクターと行政、企業セクターとの建設的な協働のために

 ボランティア・市民活動(市民セクター)が社会運営システムの主要な一角を担うものとして定着していくうえで、協働あるいはパートナーシップという考え方が広まったことは大変意義深いことであり、ここ数年の大きな成果といえます。
 
 しかし、例えば行政がNPOとの協働という場合、その内実はNPOをたんなる委託契約先ととらえ、単純に経費の節減のみを期待しているのではないかと思われる例も散見されます。
 
 特に現在日本は社会システムの構造的な転換の渦中にあり、これまでのセクター間の境界や役割分担が大きく変動している時期にあります。それだけに、拙速は戒め、協働の意味やそのためのルールのあり方について慎重に吟味しながら、行政、企業セクターとの協働関係を一歩一歩構築していくことが肝要と思われます。
 
 また、市民セクターの特質についても理解を広げることが重要です。

【協働の原則】
それぞれの異なる行動原理を確認し互いの独自性・独立性を保つ

 
 行政、企業、市民セクターはそれぞれが異なる原理をもち、問題解決への異なるアプローチをするからこそ、人々の多様な欲求に対応したサービスを提供し、社会の問題解決への選択肢を増やすことができます。
 
 行政には法令・規則などの一定の基準に基づき、公平性の原理にしたがって社会の基礎的・普遍的なニーズに対応するという役割があります。
 
 企業は利潤獲得を基本的な行動原理としながら、経済市場で財・サービスを提供することで、社会の経済的な繁栄、資源の効率的配分に資することができるといわれています。
 
 これに対し、ボランティア・市民活動には、行政サービスや経済市場では充足されがたい個別的かつ多様なニーズに対し、経済的利益の獲得を目的とせず、市民の自発性や共感によって柔軟に対応することが期待されています。
 
 いうまでもないことですが、それぞれのセクターが自身の行動原理をまず認識し、ある意味で緊張感をもって対峙することも含めて互いの独自性・独立性を保つことが、協働の出発点であり、必要なことです。この意味では、協働は望ましいとはいえ、常にすべきものとはいえないこともあらためて確認が必要です。
 
 また、セクター間の役割分担やバランスは、歴史的に形づくられた社会や文化のありようによってさまざまで、正解はひとつではありません。社会の変化の過程でセクター間の競合や軋轢も生じます。しかし、それも社会の均衡ある発展のためには必要なことととらえる必要があります。

●互いの限界を確認し役割を尊重したうえで接点を見出す
 
 行動原理が異なるために、その行動原理では対応できない限界もそれぞれが抱えます。行政は財政上の制約もあって個別的ニーズに対応することには限界があり、企業は一定の市場規模と収益が見こめないニーズに対応することには限界があり、市民セクターは自由で自発的な意思に基づくがゆえの限界がある、と説明されるものです。この限界の認識から協働の必要性が生まれます。
 
 協働にあたっては、社会を構成する組織・セクターとして互いが重要な役割を担っていることを認め、互いに接点を見い出す努力が必要となります。そして、協働する相手との距離をはかりながら、互いが求めるメリットを充たしあうという成熟した関係、戦略的な思考・行動力が不可欠です。

●長期的な視野から対等な関係を築く
 
 協働に際してはそれぞれが短期的なメリットや効果を求めるだけでなく、長期的視野から社会的な利益を増進するという目標をもち、対等な関係にたって対話を重ね、できることできないことを確認しお互いの接点をみつけること、共通課題を描いていくことが必要です。
 
 大切なことは、人々の暮らし、私たちが生活している地域そして地球の環境をよくすることであり、そのためにそれぞれがどのように協働しあって活動することがよいのかを追求することです。
 
 時として、特定のことがらについて意見が対立することはありますが、対立のプロセスそのものが社会の安定的で漸進的な変化のために必要なことであり、対立するからといっても対話そのものは継続されることが大切なのです。
 
 なお、特に行政とNPOとの協働に際して、関係の時限性が強調されることがあります。これは馴れ合いではなく緊張感をもって互いの独立性・独自性を保つことを趣旨としており、狭い意味で行政が特定のNPOに事業委託をするなど特殊な場合での時限的な関係の必要性を指しているものと思われます。
 
 しかし、市民セクター全体と行政セクターとの関係という観点でみれば、基本的な姿勢としては、ボランティア・市民活動者と行政が長期的にかかわりあうなかで信頼を育み、協働関係を深めていくことが求められます。そのうえで特定のプロジェクトや施策について特定の団体との馴れ合いは排すべきととらえるべきことを確認したいと思います。

【市民セクターの特質】
市民セクターは市民相互の共感から生まれる自発性をエネルギーとする

 
 市民セクターの活動は個人のボランティア活動として行われるものもあれば、グループ、あるいは組織化された団体として行われものもありますが、いずれも市民同士の共感を出発点とします。人間としての願い、夢、痛み、苦しみ、喜び、楽しさなどを互いにわかちあうことで、それをよりよくしていくための自発的な行動が生まれてきます。
 
 共感が重なり、響きあえば、思わぬ強さと広がりをもちえます。共感こそが、身銭を切っても活動にむかうエネルギー、個性的で多様で豊かな活動の源泉です。
 
 しかし、たんに安上がりな労力やサービスのみが期待されるだけで、どこかで共感しあう関係がなければ、そのエネルギーは瞬く間に萎え、枯れてしまいます。

●市民セクターは市民の関係性を提供する
 
 市民セクターはたんに財・サービスを提供するだけではなく、それと同時に、あるいはそれを提供する形をとりながら、実は市民同士の関係性、共感を届けていることに理解をえたいと思います。そのことがあればこそ、市民セクターの事業は、市民の生活の質(Quality of Life)を高めていくことができます。
 
 また、市民相互のかかわりあいの深まりは、孤立を少なくし人々がいきいきとそこで暮らす根をつくり、コミュニティ、社会のきずなを強化します。また、市民同士が自分たちの問題を自分たちで解決できることは解決する連帯力を高めます。
 
 関係性は金銭には換算することのできないコミュニティに不可欠な無形の資産であり、意識的に育み、強化していくことが必要です。

低コストが市民セクターの本質ではない
 
 市民セクターは低コストであるといわれることがありますが、それのみを強調することは市民セクターの本質から外れてしまう危うさをもちます。
 
 市民セクターの活動には、有給の労働であっても自らの生活スタイルに応じたかかわりを選択できたり、社会的な使命にもとづく労働ができるというよさがあり、それが結果として最適な社会的労働の組み合わせにつながることはあります。また非営利であればこそ寄付なども寄せられます。このように経済市場では調達できないさまざまな資源を調達できることが、結果として金銭的費用の低減につながることは十分あり得ます。
 
 しかし、この側面のみを過度に強調することは、無償労働の安易な利用をいたずらに促進したり、既存労働市場の原理と抵触する懸念もあるなど、注意を要することも事実です。
 
 低コストが望ましいという価値観が共有される場合には、それを使命として活動する団体があることはあり得ます。しかし低コストが全ての市民セクターに共通する本質というわけではありません。少なくとも合意形成や調整に要するコストはボランティア・市民活動の場合はかかると考える必要があります。さらには無駄とみえることでも人間らしいサービスとするためにあえて手間をかけるべきことがらもあります。
 
 むしろ金銭にはあらわれない多くの手間が、市民の共感に支えられ提供されることにこそ、市民セクターの本質があるといえます。

【具体的方策】
人材の交流・インターンシップを進める

 
 セクター間の人材の交流が活発に行われることは、セクター間の協働を進めるうえで有効です。
 
 長期・短期の研修、インターンシップなどによる人材の交換は、社会的視野を広げるなど研修効果が期待されるとともに、相互理解を深めるでしょう。

協働のための指針・ルールをつくる
 
 最近、地方自治体で協働条例などを設ける例がでてきています。一部に行政からの事業委託のみを取り上げている例もありますが、全体としては、行政と市民セクターの協働にかんする基本的なガイドラインを明文化する試みそのものは高く評価され、今後さまざまな分野に広がることが期待されます。
 
 協働のための指針・ルールづくりにおいては、市民を始めさまざまな利害関係者が参加した検討委員会を設け、対話と合意づくりのプロセスそのものを重視しながら、その地域やテーマに即した協働の理念や目的、協働方策についての具体的指針をつくりあげていくことが求められます。
 
 なお、イギリスでは、ボランティア・市民活動団体(voluntary organizations)と中央政府との間で、ボランティア・市民活動団体の役割と独立性を積極的に評価した合意文書としてコンパクト(compact)というものが1998年に策定され、現在、スコットランド政府、地方自治体など各地に試みが広がっています。参考に概要を掲載します。

協働プロジェクトが創出される場を設ける
 
 協働プロジェクトが生み出されるためには、協働という言葉にふさわしい方法、プロセス、仕組みを設けることが必要です。
 
 協働プロジェクトにおいては、特定のセクターや団体が一方的にイニシアティブをとるのではなく、市民やさまざまな利害関係者が企画段階から参加できる場を設け、そのなかからさまざまなプロジェクトが創出される方式が有効です。
 
 このような協働促進の場あるいは協議体を設け、例えば、行政は基盤的資源(拠点、財源)を、企業は商品などを、ボランティア・市民活動団体はきめこまかい情報、ネットワークやサービスを提供するなど、それぞれのノウハウが効果的に組み合わされたプロジェクトが広がることが期待されます。
 
(※)インターンシップ
 一般的には、学生が将来の進路に関係した企業等において、実習・研修的な就業体験をする制度のことです。

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(4)ボランティア・市民活動の発展基盤の整備のために


1. ボランティア・市民活動への仲介支援機関と行政とのかかわりについて

 現在、都道府県、市町村の自治体が何らかの関与をした形で、ボランティア・市民活動への仲介支援機関が設立される例が相次いでいます。
 
 このこと自体は必要な望ましいことですが、支援機関への行政のかかわりのありようについては、これまでの例を検証し、原則的な考え方の確認やよりよい方策についての一層の検討が必要です。

【考え方】
仲介支援機関にはさまざまな役割・機能が求められる

 
 仲介支援組織とは、ボランティア・市民活動をしている(これからしたいという)人や団体の活動を支援し、またボランティア・市民活動団体間や、市民セクターと行政、企業など異なるセクター間をつなぎ、協働を促進するなどの役割を担う機関です。仲介支援機関には次のような多様な役割・機能が求められます。
 
 団体に対しては団体が活動上必要とする各種助成金の仲介、ボランティアや専門的人材の紹介(あるいは開発)、団体の運営に必要なさまざまなノウハウについての研修などをとおした支援、ミーティングなどの場や機材などの便宜供与、団体が相互に刺激をうけたり、つながりが得られるためのニュースレターの発行、共同イベントの開催、ネットワーキングの支援などを行います。
 
 個人については、活動情報の提供、グループ組織化・団体たちあげの支援、ボランティア・市民活動団体からのサービスを受けたい人々への情報提供などを行います。また啓発活動や体験学習プログラムの提供などをとおして、ボランティア・市民活動に対する市民の関心を高め、活動にかかわる人々のすそ野を拡大します。
 
 行政とボランティア・市民活動団体との協議の場を提供すること、政策提言活動の支援、企業の社会貢献活動などにふさわしい団体を紹介したり、協働プロジェクトを提案したりというセクター間をつなぐ機能も求められます。
 
 このように役割・機能は多様ですが、いずれの場合であっても、あくまでも活動する人・団体の立場にたち、その多様なニーズ・価値観・活動のありように応え、柔軟で、個別的な支援を提供することが求められます。この際の支援という意味は、活動者にさまざまな刺激を与え、自ら新たな課題に取り組んだり、新しいつながりが生まれる内発的な契機を与えるということです。

活動の多様性に対応するため仲介支援機関は多様であることが望ましい
 
 仲介支援機関は多様であることが望ましいことを確認したいと思います。
 
 なぜならボランティア・市民活動そのものが多様であるからです。また仲介支援機関に求められる多様な機能に照らすと、とても一つのセンターだけで応えられるはずがないことも容易に理解されると思われます。
 
 それぞれの得意分野や専門性、あるいは目的や課題意識をもった多様な仲介支援機関がまずあって、それらが協働・ネットワーキングすることで、本当の意味で幅広く活動者のニーズや社会的要請に応えられると考えることがむしろ自然といえるでしょう。

いわゆる総合的な仲介支援機関には多様な機関をつなぐ役割が求められる
 
 最近、行政の強い関与によって総合的と銘打った仲介支援機関が設立されています。総合的という言葉の指すところは、複数の分野の活動に対応するという意味、ボランティア活動ではなくNPOの活動を支援するという意味、あるいはこの2つの意味で用いられることが多いように見うけられます。
 
 まず総合的といっても決して他を排するものではないことを確認したいと思います。活動を支援するには領域やテーマごと深い知識・情報・ネットワークが必要であり、総合的と銘打つセンターがあったとしてもこれとは別の各種仲介支援機関は必ず必要です。
 
 むしろいわゆる総合的な仲介支援機関に期待される役割は、他を排するのではなく、それらをつないで協働を促進することにあると考えられます。この意味では総合的というよりは、中心的ということがより適切と思われます。
 
 どの機関が中心的なセンターとなるかは地域の実情に応じて異なります。もっとも多くの活動団体とかかわりがある機関が担うという考えもあれば、その時点でもっとも柔軟なネットワーク、フットワークをもつ団体が担うことがよい場合もあるでしょう。あるいは、複数の団体のネットワークで役割を分担しながら担うこともありえます。いずれにしても、中心的なセンターにふさわしい公共性を備え、開かれた運営がされることが必要です。
 
 なお、行政が関与して総合的な仲介支援機関を設ける際の論拠として、窓口が複数あると市民が混乱する、行政として窓口を一元化すべきであるなどが示されることがあります。しかし、この論拠は妥当であるとは思えません。
 
 まず、行政サービスとしてボランティア・市民活動についての総合的な窓口を設けることは必要ですが、そのことと仲介支援機関が一元的であることとは別の問題です。
 
 また、多様であることで若干の混乱があるとしても、市民あるいは活動者が自分たちの価値と志にあった機関を選択する権利がより尊重されるべきであり、よりよい機関を自ら選ぶ力を市民がつけてもらうことが本来めざす方向と考えます。

仲介支援機関は民間運営が基本である
 
 補助あるいは公設民営方式などにより、行政が拠点整備や基礎的な運営経費を支援し、実際のソフトは民間的に柔軟に行うことが、仲介支援機関に対する行政としての効果的な関与のあり方と考えられます。
 
 行政が直接仲介支援機関を運営することはあまり望ましいとはいえません。なぜなら、行政が運営する以上は行政としての原則に則る必要がありますが、それは市民セクターの行動原理と異なるために柔軟な支援には限界があり、活動の自由度、自発性をかえって損ねることが懸念されるからです。
 
 例えば行政に対する政策提言やキャンペーンなどの活動について、行政がそれを支援することはできません。行政が直接仲介支援機関を運営することもありますが、その場合には情報提供、会場貸与、機材貸与、イベントなど、限定された機能にとどめざるを得なくなります。
 
 このことはしかし、仲介支援機関に対する行政の関与が不要であるとの趣旨ではありません。ボランティア・市民活動は、行政サービスでも市場でも対応することができないあるいは対応することが不適切で、かつ私的ではあっても社会的性格をもつニーズに対応するものです。その活動を支援促進し、他のセクターと仲介する機関を行政が支援することは社会的理解が得られると考えます。諸外国でも、仲介支援機関に政府の支援、関与がされることは一般に見られることです。
 
 なお、仲介支援機関に公費が投与された成果を客観的にわかりやすく評価し、市民に説明することは、当然求められます。

行政には多様な仲介支援機関の協働と機能拡充への自己努力を促す環境を整備することが期待される
 
 仲介支援機関への行政の関与の基本的な姿勢は、多様な仲介支援機関が創出され、それら仲介支援機関が協働すると同時に、相互に刺激しあいながらそれぞれが機能拡充への自己努力をする環境を整えることといえます。
 
 仲介支援機関が市民や活動者のニーズに応え、積極的に機能拡充をすることは当然推奨されるべきことです。「この機関は○○分野と決められているのでそれ以外のことはすべきでない」「ボランティア活動はこちらでNPOはこちら」という機能分担は概念としてはできても、実態をそれにあわせることはできるはずはなく、すべきでもありません。仲介支援機関間の機能分担は、制度上の仕切りとして予め定められ固定化されるものではなく、仲介支援機関の努力と市民の選択・支持の結果として生まれ、変化していくものだからです。
 
 このため、行政の補助要綱はできるだけ簡素化、大綱化し、仲介支援機関が自ら機能拡充の努力をすることを妨げないようにすることが望まれます。

【具体的方策】
複数の自治体が協力して仲介支援機関を設立支援するなどこれまでの行政の枠組みを越えた支援方策を確立する

 
 ボランティア・市民活動への支援にあたっては、これまでの縦割りの行政の枠組みにとらわれず分野横断的に対応できる機能を設けたり、自治体間の壁を乗り越えた取り組みを進めるなど、従来の枠組み・仕組みを積極的に組替えていく姿勢を行政に望みたいと思います。
 
 まず、ボランティア・市民活動団体の窓口となって必要な庁内調整を行う総合的な調整・窓口機能を設けること、分野や対象を特定しがたい分野横断的・複合的事業への補助の仕組みを設けることなどが求められます。
 
 また、今後は、複数の自治体が協力してセンターを設置する、機能の異なるセンターを設け広域で利用しあうことを確認するなど、広域での協力・連携が必要です。ボランティア・市民活動には必ずしも単独の自治体の範囲では完結しない活動も多く、また専門的な支援機能について各自治体に設けることが非効率な場合もあるからです。

仲介支援機関には多様な人々・団体に支えられる財源構造とする努力が求められる
 
 いくら行政の仕組みが柔軟になったとしても、必ず公的制度としてのルールがあるため、仲介支援機関が財源を専ら公的資金のみに頼っていたのでは柔軟な事業展開は困難です。仲介支援機関が自ら自主財源を獲得する努力をすることは不可欠といえます。
 
 市民に寄付の文化は少しずつ広がりつつあるものの、まだ「困っている誰かに直接役立ててほしい」という意識が強く、「その誰かを支える団体の活動のために」コストがかかるという理解は乏しいといえます。まして「誰かを支える団体をさらに支援する仲介支援機関の事業のために」資金を提供してくれるまでには道は遠いといわざるをえません。しかし「ボランティア活動はよいことだから無料に」という形で機関が運営されているために、市民にコストが理解されにくくなっている現状があることも事実です。
 
 仲介支援機関はボランティア・市民活動の推進のための社会的基盤であり、それは公費だけでなく、市民、さまざまなセクターから支えられるだけの公共性があります。公的資金や助成金などの他にも、市民に必要な実費は負担してもらうこと、プログラムの企画料や参加費などは適正に負担を求めるなど、センターを皆で支えるという意味での負担について理解を得て、自己財源の獲得に努める必要があります。

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2. 寄付を促進するための取り組み

 ボランティア・市民活動の財政基盤を確立するうえでの寄付の重要性については広く認識されるようになりましたが、わが国ではまだ寄付の文化が十分に根付いていないという指摘もしばしば聞かれます。実際、アメリカと比較すると、個人、財団、企業等による寄付金は日本はアメリカの20分の1以下であり、またアメリカでは寄付総額の9割が個人寄付であるのに対し日本は5%であるというデータがあります(出典「NPOデータブック」有斐閣1999)。
 
 ここでは、寄付を活性化するための考え方や取り組みの方向を提起します。なお、特に寄付税制については次項で取り上げます。

【考え方】

 先のデータをみるまでもなく、日本では個人寄付の活性化を図ることが大きな課題です。それはいいかえれば、なぜ寄付をするのか、なぜ必要なのかという根本にたちかえり、個々人の意識改革をはかる必要があるということです。

助け合いの意識をいかし共感を広げることで寄付は活性化される
 
 わが国で寄付を活性化させるためには、助け合いの意識を生かしながら、自らが必要だと共感することを自分たちでつくりだすために、自分たちでお金を出し合うという意識を広げていくことがポイントといえます。
 
 市民の間には寄付は助け合いだという意識が根強くあることが調査から伺えます(中央共同募金会「寄付とボランティア活動に関する意識調査」2000年より)。日本なりの寄付の文化の活性策を考える場合、この助け合いの意識をどう意味付け、どのように活かしていくかを考える必要があります。
 
 助け合いという意識の背景には、「お付き合いで」「できる範囲でほどほどに」という考えがあると考えられ、自ら団体を選んで支援するという意識はまだそれほど広がっていないのではないかという評価もできます。しかし、例えば被災経験をしたものとして見知らぬ被災者を支援するという方向に開かれていくことも可能あり、現にそうした行動が広がっています。
 
 災害時の助け合いの広がりや、対象や目的が明確である募金活動が活発であることをみると、「このようなことがしたいから」という目的が明確で、共感を呼ぶものであれば寄付は活性化します。現状で自ら選んでという意識が広がっていないのは、そうした意識を喚起するための情報発信が十分ではないからではないでしょうか。

寄付によって社会に参加する
 
 必要だと思うことを支えるためにお金を出すということは、すなわち社会参加です。
 
 寄付がボランティア活動そのものかどうかということについてはさまざまな考え方がありますが、少なくとも社会参加の一つのあり方として認めあい、広げていくことが必要です。

寄付は市民が望ましい公益・公共のありようを選択する手段という意識を広げる
 
 特に寄付が税控除と結びつく場合には、税金を納める代わりに自分が選んだ団体あるいはプログラムの資金を提供する、という関係が成立します。つまり、特定のことがらについて、行政サービスとして提供されることを望むのか、それとも自ら選んだ団体によって提供されることをよしとするのかを、納税者として意思表示することになるのです。
 
 市民セクターの独自の領域を確立するうえで、「寄付は市民が望ましい公益・公共のありようを選択する手段である」という意識を広げていくことが、今後の大きな課題といえます。

【具体的方策】
寄付に関する情報提供や仲介を行うセンター機能の確立

 
 現状では寄付についての情報集約機能が十分ではないため、どのような団体がどのような目的で資金ニーズをもっているのか、全体ではどのようなことが課題となっているのかを全体的に把握することが困難です。
 
 既存の仲介支援機関、募金団体、助成財団など、寄付にかかわる民間団体が協働してイニシアティブを発揮し、寄付情報の集約と提供、仲介などを行うセンター機能を確立することが望まれます。

魅力的で参加しやすい募金プログラムの開発
 
 個々人が参加しやしく、また共感を感じやすいように創意工夫した多様な募金プログラムが一層開発される必要があります。
 
 特にその際は、分かりやすいテーマや目標を設定し、実際に達成感が得られることが重要です。こうした観点から、学校での募金活動、職域での端数募金、マッチングギフトプログラムなどが活性化・拡大されていくことが期待されます。

多様な募金ボランティア活動の拡充と人材養成
 
 人々の理解、共感を得て、支援の輪を拡大するためには、募金活動を推進する人々のすそ野を広げると同時に、その人材の層を厚くし専門性を高めていくことにこれまで以上に意識的に取り組む必要があります。
 
 そこで多様な募金ボランティア活動が開発され、寄付活動が大いに活性化することが期待されます。この活動は、特に社会経験を重ね、幅広いつながりをもつシニアの勤労者OB層などには好適なプログラムといえます。
 
 また、ボランティア・市民活動団体において資金調達を担当する専門職員(ファンド・レイザー fund raiser)などの養成を図ることも必要です。

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3. ボランティア・市民活動の健全な発展を促進する法制度・税制度について

 特定非営利活動法人制度の創設は、活動団体に法人格取得の道を開き、基盤強化の基礎的条件を提供したという意味から、大きな意義がありました。それだけでなく、これまで個別分野ごとに推進されてきたボランティア・市民活動に、NPOという横割りの共通概念をもたらしたために、活動団体同士の分野を越えたつながりが生まれたり、行政側の支援・協働の仕組みを再編、構築する契機となったこと、活動の社会的認知を高め、情報公開など開かれた仕組みを持ちこんだことなど、たんに法人格取得の問題にとどまらないインパクトを与えているといえます。
 
 また、ボランティア・市民活動の健全な発展を促すための寄付税制は極めて重要です。たんに資金の還流を促進するだけでなく、社会的支援を受ける団体としての適切な運営が促進されること、制度の確立によって資金還流の実態の補足が可能となり、それが社会に示されることでセクターの規模や役割への認知が高まることなどが期待できるからです。
 
 今般、一定の要件を満たす特定非営利活動法人への寄付税制の優遇措置が創設されますが、この制度も含め、ボランティア・市民活動の健全な発展を促進する法制度、税制度についてはさらに検討が続けられ、今後も充実されることが必要です。

●認定特定非営利活動法人への寄付者に対する課税軽減措置の要件は、団体の活動実態や望ましい活動を促進する視点から見なおしを図る必要がある
 
 一定の要件を満たす特定非営利活動法人(認定特定非営利活動法人)に寄付をした者に対して課税軽減(特定公益増進法人に対する寄付とほぼ同等)を行う税制支援措置の骨格が決められ、2001年10月1日より施行されます。
 
 客観的な基準・手続きにより認定されるという考え方に基づく税制が創設されたことそのものは大きな意義をもつものです。認定基準の内容のうち、事業内容、組織運営、経理の適正さ、情報公開などの規定については全体としては肯ける内容が見られ、適正なNPOが社会的支援を受けられる基準の一つとして意味をもちうると思われます。
 
 一方で、特に認定基準のなかの「活動実態に着目した要件」については種々の問題点が指摘されています。
 
 具体的には、助成財団等からの助成金、行政の補助金の獲得や事業収入を増やすなど自主財源確立の努力をするほど認定が受けにくくなるだろうこと、役員・会員の寄付の割合が高い団体、会員へのサービスなどの割合が高い団体を排除する規定が置かれていることから、皆が民主的に参加し運営を支えている団体をむしろ排除する方向に作用しかねないこと、地域密着型の活動をしている団体は対象となりにくくなるだろうことなどです。
 
 これらのことから、この要件は多く団体の運営実態に必ずしもそぐうものではなく、また団体の望ましいありようとしてこの規定に沿うことを積極的に推奨すべきとは思えないために、市民セクターの活動の健全な発展のための支援促進をはかるという本来あるべき趣旨に照らすと疑問が大きいという指摘が少なからず見られます。
 
 また、新たな制度について納税者の理解を得るために制限的に開始する必要性は一定理解できるものの、基準が過度に制限的であるために該当する団体がほとんどなく、かえって制度の必要性そのものに疑問が呈される方向に作用してしまうことも懸念されます。
 
 このため、同認定基準については引き続き検討を重ね、早期に必要な見なおしがされることを望みます。

一定の要件を満たす特定非営利活動法人についてみなし寄付金制度の導入を図る
 
 ボランティア・市民活動団体が財政基盤を確立するため、事業収入を拡大する努力を税制上も促進することは重要な意義を持ちます。
 
 このため、認定特定非営利活動法人をはじめとする一定の要件を満たす特定非営利活動法人が事業収益を本来事業に充当できるみなし寄付金制度の導入を図る必要があります。

助成財団への寄付について特定公益増進法人並の取り扱いを図るなど間接的な寄付について一層の促進策を講ずる
 
 ボランティア・市民活動団体は全体としては小規模な団体が多く、個々の団体に着目していくら要件を緩和したとしても、緩和には当然一定の下限があります。直接的に団体を認定する方式だけでは限界があるのです。このため、団体への助成を行う助成団体への寄付を優遇し、その助成団体を通じた助成の活性化を図ったり、適切な助成プログラムをもつ募金団体の活動の活性化を図るなど、間接的な寄付の促進策を講ずる必要があります。
 
 具体策としては、ボランティア・市民活動への支援を目的とした助成財団に対する寄付については、特定公益増進法人並の取り扱いを図ることが望まれます。これにより、助成財団の設置や財政基盤の拡大が期待され、多様な資金助成が行われることが期待されます。
 
 あわせて、共同募金会など草の根の活動に資金支援を行う団体の機能の拡充、寄付の仲介機能、評価機能、情報の集約・提供機能などももつ新たな機構の創設などが検討される必要があります。
 
 また、案件の緊急性に着目した現行の指定寄付金制度について、プログラムの適格性や地域性に応じた柔軟な運用がされることにより、活性化されることが期待されます。

ボランティア活動参加費用の所得控除の検討
 
 一定の要件を満たす特定非営利活動法人や公益法人、特定公益増進法人などが行うボランティア活動プログラムに個人納税者が参加した場合、あるいはそのプログラムが適格であることを第三者が証明できるプログラムに参加した場合に、活動や研修について個人が支払った交通費、材料費、宿泊費、保険料、食事代などの経費の所得控除を認める方策について検討が必要です。同種の制度はアメリカでは創設されています。
 
 このことがボランティア活動参加への誘因の一つとなることが期待されます。

年末調整での寄付控除を可能にし個人の寄付金控除の手続きを簡便化する
 
 以上の寄付税制を創設する際、個人の寄付控除の手続きを簡便化することが重要です。現状では確定申告手続きを行う必要がありますが、それは勤労者をはじめとする多くの納税者にとって煩雑であるからです。
 
 そこで、年末調整で寄付控除を可能とすることを提案します。

21世紀にふさわしい公益性、公共性の概念を確立する必要がある
 
 現在の特定非営利活動法人は、営利を目的とせず(利益を分配しない)、不特定多数の利益の増進に寄与することを目的とした団体に法人格を与えるという考え方にたっています。
 
 一方、ボランティア・市民活動には、市民の助け合い活動として発展してきたものや、排除された少数者への支援を目的としたものが多く見られ、不特定多数の利益の増進という言葉には文字通りにあてはまるものではありません。目的に共感した人々が運営に参画し支え合うために会員制をとり、サービス受益者もできるだけ会員として対等の立場で参加してもらうことを理念に運営されていることも一般的です。また、団体はいずれも広い意味の社会的利益や正義の実現を目的としますが、その根拠となる価値観は多様であり、各団体の活動理念や目的をイコール不特定多数の利益増進と理解するかどうかは、受けとめる側の価値観により異なります。
 
 このように不特定多数の利益増進という考えと団体の実態とはそぐわない面があるのですが、特定非営利活動促進法の検討過程で多くの関係者の真摯な議論と努力によってこのことに十分配慮され、できるだけその実態にそぐうように、またできるだけ所轄庁の恣意を排して準則主義に近い形での設立を認めるなど、さまざまな工夫がされています。
 
 しかしながら、認定特定非営利活動法人制度の認定要件の問題に典型的にあらわれているように、やはり公益=不特定多数の利益の増進というだけでは、市民活動の実態やあるべき方向と必ずしもそぐわない点が今後もでてくると予測されます。
 
 そこで、将来のよりふさわしい制度を構築するために、公益あるいは社会的利益とはすなわち不特定多数の利益の増進ということであるのか、例えば相互扶助=助け合いという人々にはもっとも理解されやすい考え方は公益ではないのか、助け合いや共益は私益であるのかなど、公益・共益あるいは公共性の概念そのものに踏みこみ、国民的な議論を深めていくことを提起します。その際は、市民セクターの役割と他セクターとの関係をどのように考えるか、どのような方向で市民セクターの発展をめざすのかといった基本的理念に常に立ちかえることが必要です。
 
そのうえで、必要であれば民法や公益法人制度、中間法人制度、関連税制などにも踏みこみ、市民セクターにより相応しい制度のあり方について検討される必要があります。

   
 
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