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序章
コミュニティの再考〜私たちにとっての課題とは?〜 提言

<目次>
はじめに
1.地域社会をめぐるボランティア・市民活動の課題
2.市民の多様な「コミュニティ」に対する意識
3.「良い垣根は良い友情をつくる」

 

はじめに

 新たな世紀の始まりの年であった2001年は、私たちボランティア活動推進に携わる者にとって、特別の感慨のある年でした。それは、わが国も提唱国となり国連が定めた「ボランティア国際年」を迎えたからです。世界各国で、ボランティア活動の推進に向けた多様なアクションプログラムが繰り広げられましたが、私たち、「広がれボランティアの輪」連絡会議においても、『市民の力で共生の世紀を創り出すために』と題する提言をまとめ、発信しました。
 
 この提言では、第一に、新たな世紀が一人ひとりの尊厳が守られ、誰もが希望をもって生きていくことができ、個人や地域、文化の多様性を尊重しながら共生できる社会となるために、ボランティア活動の価値と可能性を認め、その力を高めていくための呼びかけをしました。第二に、とくに日本国内でのボランティア・市民活動の推進課題を提起しました。
 
 ボランティア国際年を終え、ボランティア・市民活動は、今よりももっと大きな役割を果たす必要があり、またそうできる方向に力量を高め、社会のありようを変えていく必要があることを確認したところです。
 
 そこで、今年から数年かけて、私たち(ボランティア活動推進機関)は、あらためて私たちにとって身近な「地域社会」、「コミュニティ」をテーマに掲げ、それらが内包している、あるいは今、直面している個別の課題に取り組んでいくことにしました。
 「地域社会」あるいは「コミュニティ」については、歴史的、伝統的にわが国固有の特性をもっていますが、一方で、グローバリゼーションの進展のなかで、各国でもこの問題については大きな変革の時代を迎えています。
 コミュニティの再生に向けて、私たちは、こうした側面を背景としておさえ、私たちが果たすべき役割と課題について深めていきたいと考えています。
 
 最初の年である今回は、ボランティア・市民活動をすすめていく際の、地域社会、さらにはコミュニティが直面している現状や課題を整理し、さらに再考してみることを主眼としました。
 その意味で、今回は具体的な事例の紹介は割愛しており、次回の提言の際に、コミュニティ形成に向けたとりくみ、あるいは地域社会とコミュニティの協働のとりくみなどの実践例の紹介を通じてコミュニティの再生に向けた論点を深めていきたいと考えています。

▲UP

 

 

1.地域社会をめぐるボランティア・市民活動の課題

(1) 地域社会の変遷

 この項では、私たちがこれまで役割を果たしてきた地域社会について、とくにボランティア・市民活動との関係において、どのような課題が生じてきているのかを概観してみます。
 
 まず、それぞれの地域で暮らしを育んできた人びとにとっての、近年の地域社会の変化を振り返ってみます。
 近代の出発点である明治以降に限って考えてみても、封建時代から根づいてきた「家」という生活の単位があり、そして、その集合体としての「家連合」が「ムラ社会」を構成してきました。「ムラ社会」はまた、農業などの生産単位の集合体ともなり、地域共同体が成立していました。
 いわば、上位下達の「タテ型」で自己完結型でもあった「ムラ社会」では、「掟」と呼ばれる約束事があり、家を対象とした「村八分」という排除の仕組みも存在し、「和」と「分」(身分など自分の位置)がルールとなっていました。明治時代の半ばまでは、こうした地域共同体型の自然村が約7万あったといわれています。
 
  これらの自然村は、地方自治制度としての市制町村制の施行により行政単位となり、その市町村数の変遷を見ると、明治20年代のいわゆる「明治の大合併」により、約7万の自然集落として町村の単位が約1万5千の市町村になり、その後、昭和20年代から30年代にかけての「昭和の大合併」により約3千5百の市町村数へと激減し、現在、政府はさらなる市町村合併を推進しています。
 
 その一方で、わが国には、地域社会を基盤とした「お互い様」「社会への恩返し」あるいは「奉仕」などの意識に立つたすけあい活動の伝統が脈々とありました。
 これら伝統的な助け合い活動ともあいまって、地域社会では自治会・町内会、婦人会、青年団、民生委員・児童委員活動、消防団活動など地縁的な自治活動が行政とも密接な連携を保ちながら展開されてきました。
 近年は、たとえば自治会・町内会への加入世帯の減少がいわれるとともに、これらの組織の役員の固定化や高齢化が課題となってきています。

(2) 地域社会とボランティア活動

 次に、地域社会とボランティア活動のかかわりについて考えてみます。
 ボランティア活動という言葉が導入されたのは第2次大戦前後といわれていますが、外来語として受容されたボランティア活動は、その新しい響きあるいは個々人の自由や自立と連帯を強調する考え方ゆえに、社会参加の欲求や社会的な問題意識をもつ人々をひきつけ、社会的な活躍の場を提供してきました。
 とりわけ、高度経済成長期以降には、婦人層を中心としたボランティア活動が活発に展開され、草の根の広がりが進みました。一方で、高度経済成長期は、ボランティア活動の推進にとっては冬の時代とも言え、居住する地域と同じ地域でボランティア活動をした際に、「お節介」と思われたり、とくに社会福祉関係では公的な福祉施策拡充の世論が盛り上がっていた時代でもありました。
 こうした時代を経ながら、ボランティア活動はさらなる発展をし、障害、子育て、親の介護など当事者によるグループの組織化や連携が拡充し、社会的な存在としてその発言力も飛躍的に高まりました。
 
  90年代前後からは、会員やメンバー相互の助け合い活動を組織化し、社会的な責任をもつ事業を展開する活動が生まれています。そして、これらの活動を表すために、ボランティア活動とは別の言葉として、市民活動という新たな言葉が使われはじめました。
 市民活動、NPOなどの言葉がもつイメージや、その活動自体が目的限定型、フットワークの良い機能型であったことから、これまで地域で行われてきた伝統的な助け合い活動や地縁活動にもボランティア活動にも参加してこなかった人びとが活動するようになってきました。

  以上、地域社会とボランティア・市民活動との関係を概観してみました。ボランティア活動の胎動期からの半世紀を振り返ってみても、ボランティアを風にたとえ、地域社会を土にたとえた場合、ボランティア活動によっては、地域の伝統的な助け合い活動とも徐々に融和し、日常生活への草の根の広がりや定着も進み、風から土に変化してきている活動も多く見られます。
 
 また、伝統的な助け合い活動、近隣の知り合い同士だけでなく見ず知らずの人に開かれ、組織的に大きな力を持つ可能性のあることを、私たちは災害救援活動や草の根の福祉活動から学んできました。一方で、従来からの地縁的な自治活動に、個人の発意に基づき新しい活動者として加わる例も増えてきています。

 このように、日本社会では、わが国で育まれてきた伝統的なものに新しい言葉や考え方を加えることで、独自のボランティア・市民活動の文化をつくりだす途上にあるといえます。
 こうした活動は、独自の文化を生かしながら、新しいものと融合を図る努力が求められています。また、個々人の自発的な意志と協働に基づく社会活動を尊ぶ文化を根づかせていくことも大切な課題といえましょう。

▲UP

 

 

2.市民の多様な「コミュニティ」に対する意識

(1) 地域社会とコミュニティの意味の違い

 「地域社会」とともに今回もう一つのキィーワードとなっている「コミュニティ」については、たとえば実践分野においても研究分野においても極めて多義的な言葉として使われています。言い換えれば、コミュニティに対する認識やイメージが多様に存在すると考えられます。
 
【参考】コミュニティの定義や考え方として、たとえばつぎのようなものがあります。


【例1】都市化の進展に伴うコミュニティの形成という観点からの分析例
 コミュニティとは、住民が、主体的に創造し共有する普遍的な価値意識に基づいて行動することによって新しく形成されるものであるとして、(1) 社会の急激な変動によって解体・崩壊しつつある伝統的地域共同体のモデル、(2) 地域共同体モデルが変化する過程で生じる過渡的段階のモデル、(3) 大規模団地等に代表される地域共同体とは対照的な位置にあるモデル、(4) 都市化の成熟に伴って上記3つのモデルから移行していく「コミュニティ」モデルの4つのモデルを挙げている。(奥田道大『都市コミュニティの理論』、1983)

【例2】「福祉コミュニティ」づくりの考え方例
 福祉コミュニティは単なる目標ではなく、コミュニティが構成する1つの社会状態をつくるという考え方で、(1) 社会福祉施設、ないしは在宅福祉サービスや活動、(2) それを支えていく公私のネットワーク、(3) それに参加・協力する住民の意識・態度の変容の3つが一定の範域の上に成立することによってつくられる、という考え方。さらには、こうした多様な福祉コミュニティが地域に重層的につくられていくことは、結果的に、その地域社会が、福祉的様相を強く帯びたコミュニティづくりの進んだ状態をつくりだしていく、という考え方。(新版・社会福祉学習双書編集委員会編『新版・社会福祉学習双書2002 第15巻』、2002)

 ただし、私たち(ボランティア活動推進機関)は、コミュニティという言葉のもつ意味について、地域社会とは必ずしも同義語ではないことを、はじめに確認しておきたいと考えます。
 さらには、前項でふれた地域社会との関係でとらえれば、地域社会では、地縁関係がある意味でマイナスに働き、一人ひとりの自発的な活動や行動の選択の幅が固定的になった場合もありました。

 その対称として、地域社会の中で、あるいは地域社会を離れてもコミュニティが形成される過程では、個々の人びとの価値観や想い、判断などにより自分が主体的に行動すること、いわば「個」の原理からの出発と、人びとが同じ想いや目的でつながる「ヨコ型」のネットワークが原点になると考えられます。
 この際に、一人ひとりの「個人」は、活動の担い手、活動に伴うサービスの利用者、活動の推進者など、ときに一人で様々な役割を重複して果たしている場合もあります。
 
 このように考えてくると、地域社会は、地域を基盤に地縁関係を母体として既に存在するもの、いわば「存在概念」といえます。また、地域社会は、それぞれの地域特性により極めて複合的で多様性のうえに成り立っている特徴もあります。
 一方で、コミュニティは、地域社会という生活の場などにおいて、市民が市民としての自主性、主体性を自覚して様々な活動を通じて意識的に形成していくもの、いわば「形成概念」といえます。こうした特徴から、コミュニティは理念や目的を大事にする極めて機能的なものであると言えます。
 以上のことから、地域社会が活動を育くむ「土」であり、コミュニティが種子を運んできたり、土を耕す「風」の役割を果たすものと言うことができるかもしれません。
 
(2) コミュニティをめぐる多様な論点

 人びとにとって地域社会との関係が薄れていくなかで、従来のような強い絆ではないかもしれませんが、多様な問題解決に向けて、機能型、目的型など有機的なつながりによる柔構造の仕組みとしてコミュニティをイメージできないものかと考えます。
 こうしたコミュニティの形成を通じて、協働や連帯といった社会的な新しい文化を創っていくことが、私たちにとって今後の大きな目標となっていきます。
 さらには、ボランティア・市民活動との関係を考えていくうえで、コミュニティをめぐっては、以下のような多様な論点があることも認識しておきたいところです。
 
 第1に、人びとが同じ地域に住んでいれば同じコミュニティに属していると見なすことがあります。しかし、これには異論の余地もあり、人びとが互いに近接して住んでいながら社会的接触はほとんどない、というケースも珍しくないからです。
また、これと同じ文脈でコミュニティをとらえると、学校、職場、企業単位のコミュニティの存在も考えられます。
 
 第2に、コミュニティを、人びとの間の一連の相互作用を通じてできた社会的ネットワークとしてとらえられないか、ということです。この場合、地理的なコミュニティではない場合もあるでしょう。
 たとえば、同じ国の出身者どうしの在日外国人のネットワークや宗教的な集団、あるいは難病、障害などの当事者間のネットワークも当てはまるかもしれません。これらのコミュニティに属している人びとは、社会的接触のパターンや経験を共有しており、連帯の意識が強いものと考えられます。
 
 第3に、共通の文化をもっている場合にコミュニティと見なすことができるかもしれません。この場合、「文化」とは、一連の行動パターンや言語、歴史、共通の経験、規範・価値、生活様式などをさすことが考えられます。
 
 第4に、共通の利害や関心をもっている場合に「コミュニティ」を形成していると見なすことができるかもしれません。近年急速に普及したインターネットや電子メールなどITを媒介とした「ネットコミュニティ」も当てはまるかもしれません。
 
 さらには、コミュニティを生活課題を共にする集団と位置づけ、生活課題を解決する社会的なつながりとしてコミュニティをとらえることも考えられます。この場合、そのコミュニティの地域性や独自性は尊重しながら、閉じた集団ではなく、開かれたコミュニティとして考えていくことが必要な視点となります。

▲UP

 

 

3. 「良い垣根は良い友情をつくる」
〜地域社会とコミュニティとの葛藤のなかで、ボランティア活動推進団体が 両者をつなぐ役割を果たすためには〜


 以上、ボランティア・市民活動をすすめていく際の「地域社会」、「コミュニティ」をめぐる状況や課題を見てきました。さらには、地域社会とコミュニティとの関係について考えてきました(別紙の参考図を参照のこと)。
 今後、社会のありようを変えていくことに向けて、私たち(ボランティア活動推進機関)が果たすべき役割と課題について深めていきたいと考えていますが、現在の段階においても、次のことが大きな課題として挙げられます。
 
 第1に、「地域社会」のところで見てきたように、地域社会を基盤として重層的に展開されてきた地縁的な自治活動、ボランティア活動、市民活動の3者を考えた場合、それぞれの活動団体間で、相互に見えない壁、意識のずれや葛藤が生じている場合があることを関係者が受けとめる必要があります。
 米国に「良い垣根は良い友情をつくる」ということわざがありますが、まさにこのことわざのとおり、その違いや葛藤を互いに認めあい、存在をわかりあう、理解しあうことから、それぞれが共生に向けスタートできないものかと考えます。
 今後は、地域社会のなかにどのような葛藤があり、共生できる手段としてどんなことがあるのか、さらには、私たちがつなぐ役割を果たしていくためには何ができるのか、たとえばその「きっかけ作り」となる事例の検討も含め、深めていく必要があります。
 
 第2に、「コミュニティ」のところでふれたとおり、現在、わが国においても、地域立脚型だけではすまないコミュニティの多様化や多層化が進んでいると考えられます。市民の生活のある一面を支えるコミュニティの状況は、反面、その是非はともかく、社会の分極化や分断が進んでいるともいえます。
 同時に、前項でみたとおり、地域社会とコミュニティが、今後は共存しあい、それぞれが地域の中に厚みをつけるために作用しあう必要があると考えます。
 近年、「ソーシャルキャピタル」という言葉が使われはじめています。ここでは、「社会関係の含み資産」と意味付けした場合、この含み資産は、さまざまなニーズにこたえる「多様性」や、多様な活動主体者の参画で活動の質の厚みによる「重層性」、さらには、人びとの「参加性」という密度が高まるほど豊かなものになっていくと考えられます。
 第1の課題と同様に、今後は、私たちとして、「新しい風」を受け入れながら両者をつないでいく役割を果たすために、何ができることなのかを深めていく必要があります。
 
図−1 地域社会とコミュニティの関係(概観)
地域社会とコミュニティとのかかわり方は、それぞれの地域性や特性によって極めて多様なパターンがあると考えられます。ここでは試みに、代表的な4つのパターンを概観してみました。

パターン1(地域社会とコミュニティに重なりあっている層がある場合)

パターン1(地域社会とコミュニティに重なりあっている層がある場合)

パターン2(地域社会のなかにコミュニティが点在している場合)

パターン2(地域社会のなかにコミュニティが点在している場合)

パターン3(地域社会がコミュニティを内包している場合)

パターン3(地域社会がコミュニティを内包している場合)

パターン4(地域社会の外縁にコミュニティが存在している場合)

パターン4(地域社会の外縁にコミュニティが存在している場合)

 

図−2 地域社会とコミュニティの関係イメージ(例)

図−2 地域社会とコミュニティの関係イメージ(例)
図−2 地域社会とコミュニティの関係イメージ(例)


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