阪神・淡路大震災における
支援活動を通して学んだこと・提言
(1995年6月21日)
<目次>
はじめに
支援活動展開の原則
効果的な支援活動を進めるために必要なこと
ボランティア団体と行政との連携・協力のあり方
はじめに
未曾有の大規模災害となった阪神・淡路大震災の支援活動を通じて、ボランティア活動の実施・推進に関わる私たちは多くのことを学びました。この提言は、私たち自身が力不足であった点の反省も含め、支援活動を通した経験から学んだ点をまとめるとともに、これから私たちが取り組んでいかなくてはならないことを確認したものです。
同時に、このような大規模災害時下でボランティア団体が適切に役割を果たすためには、市民、企業、行政等、多くの関係者の方々の理解と支援、協力関係づくりが必要となります。現在、各方面で災害時のボランティア活動の役割や支援のあり方についての検討が進められていますが、この提言が関係各方面の検討素材の一つとなり、今後、不幸にして再び大規模災害がおきた時でも、関係者が力をあわせて速やかに復興に向けた取組が進められるよう、よりよい方向が見出される一助となることを願っています。
わが国では、福祉、教育、環境、国際など幅広い分野におけるボランティア活動が行われていますが、これからの日本社会の国際化、多様化を考えると、国内外を問わず様々な市民レベルの活動や交流が広がり、発展していく必要があります。そのためにはボランティア活動の実施・推進に直接関わるものを始め、教育、経済、労働、行政関係者、そして市民の参加による開かれた協議と合意づくりを積み重ねていく息の長い取組を通して、多くの課題を解決していく必要があります。
ボランティア社会の創造に向けた幅広い、社会的な議論がさらに進められることを願い、これまでの私たちの協議を「ボランティア活動に対する社会的な支援策に関する提言」としてまとめました。
支援活動展開の原則
1.大規模災害時の外部からの支援は、現地の支援体制の確立を促し、市民が本来持つ力の回復を促す支援でなくてはならない。今回の経験をボランティア団体が相互に学びあう中で、よりよい支援活動の展開方法を身につける必要がある
大規模災害時の外部からの支援は、現地の支援体制の確立を促し、市民が本来持つ力の回復を促す支援でなくてはならない。多くのボランティア団体はそのような支援を心がけたが、このような大規模災害での支援活動は初めて経験であり、支援活動展開の方法が未確立であったことも認めざるを得ない。
海外での活動経験を持つNGOなどは外部支援を現地化するためのノウハウを長い活動経験から確立してきている。今回も、現地の関係機関とのパートナーシップづくり、情報共有化を始めとする外部からの支援と現地の行政や民間団体との協働活動の枠組みづくり、撤収のタイミングの見極めなど、経験に裏打ちされた見事な活動があった。また、災害直後の人命救助、その後の避難所等での生活支援、ライフライン復興後の支援活動など、状況の推移により求められる支援内容が大きく変化することも今回身をもって経験した。これらの経験を今後、ボランティア団体が分野を越えた広い経験交流をすることで互いに学びあい、研鑽する中で、よりよい支援活動の展開方法を身につける必要がある。
2. ボランティア団体及びボランティアは、現地に負担をかけない活動スタイルを確立する必要がある
支援活動にあたっては、現地に負担をかけないことが最低限のルールである。多くのボランティアが食料や寝袋を持参し活動した。また、ボランティア団体も活動機材等を自前で調達し、現地に入っていった。この経験は銘記される必要がある。また、事前に最低限の引継ぎを済ませ、移動の道中で研修をするという取組もあったが、オリエンテーションや引継ぎに要する現地の負担を軽減し、速やかに必要な支援活動に入ることができ、効果的であった。
効果的な支援活動を進めるために必要なこと
3. 高齢者、障害者、外国人等、大規模災害時の生活困難がより深刻となる人々に対して、近隣の住民、ボランティア、福祉サービス提供機関、行政等によるきめの細かい支援体制を予めつくる必要がある
今回の大震災で、最も深刻な生活困難に見舞われたのは高齢者、障害者等であったことは深く反省されなくてはならない。特に、これらの人々の日常的な把握が不十分であったり、近隣との関係が希薄であったために、震災後の状況把握には大きな困難があった。また、避難所、在宅における個別の福祉的支援には多くの課題があった。
今後、高齢者、障害者等に対する近隣の住民やボランティアによる安否の確認などの見守りネットワークをつくるとともに、福祉サービス提供機関同士の情報共有、災害時を予測した個別のきめの細かい支援計画の策定等、関係者による支援体制を確立する必要がある。
4. 大規模災害下におけるボランティア活動のコーディネートのあり方について、今後、検討を深めていく必要がある
今回、全国から支援ボランティア活動に駆けつけた人の8割近くが、初めてボランティア活動を行う人々であった。それらの人々が適切に活動ができ、自ら活動を発見していくよう支援するコーディネートの方法が、様々に模索された。今後も大規模な災害が起こった時には、全国から多くの人々がボランティアとして駆けつけると思われるが、その際に、初めての人であっても適切な活動が行えるようなコーディネートのあり方について今後とも研究し、開発していく必要がある。
一方、日頃各地域で活動をしているボランティアたちも大変な活躍をした。例えば、地域で会食活動などを行っているボランティア団体が、機材、食材等を全て持ち込み、交代で炊き出し活動を行い、それによって継続的な食事の提供が可能となった。このような支援活動の展開方法も非常に有効なものとして銘記される必要がある。
5. 専門職としてのボランティアコーディネーターの確立と量的拡大を図るとともに、災害時を想定した訓練、研修を行う必要がある
被災地のニーズの質を見極め、状況に応じた効果的な支援プログラムを開発・実施するためには、訓練された専門性の高いボランティアコーディネーターが必要である。
被災地では、ボランティアに対してありとあらゆるニーズが寄せられる。また、状況変化が非常に早く、ボランティアがすべきことも刻々変化する。例えば、「立ち入り禁止の危険な住宅から家財をとりだしてほしい」「壊れた屋根を直してほしい」など、ボランティアが行うことが危険なニーズが寄せられた際、ボランティアができることを見極め、被災者等の理解を得、行政・専門機関等の必要な対応を促すよう調整するのは、日頃からの業務経験を持つ専門性の高いボランティアコーディネーターでなくてはできない。
わが国では、ボランティアコーディネーターの専門職としての社会的な認知が低く、量的にも極めて少ない。ボランティアセンター、ボランティア活動推進団体、社会福祉施設、病院、企業等でボランティア活動プログラムの開発を行い、他機関、専門職等との調整を行う専門性の高いボランティアコーディネーターの養成・設置拡大を図る必要がある。
また、これらのコーディネーターに対して、大規模災害時を想定し、被災地の状況変化とボランティアによる援助プロセスの見通し、判断の考え方等についての研修を行い、今回のような大規模な災害に備える必要がある。
6. 効果的な支援活動展開には民間団体同士のネットワークが必要である
継続的、効果的な支援活動の展開には、被災地の状況についての情報交換、お互いの活動の長所を補うボランティア団体同士のネットワークが有効であった。ある地域では、NGO、ボランティア活動推進団体、社会福祉協議会の間で、住民、ボランティア、行政等への窓口機能、ボランティアの組織化・オリエンテーション・派遣等についての基本的な役割分担が行われ、避難所の運営、掃除・引っ越し等のニーズ、福祉ニーズ、保育・レクリエーション活動など、単なる情報交換のレベルに止まらないお互いの持ち味をいかした協働活動が行われた。
また、企業、労働組合、協同組合等は、それぞれの特徴を活かし組織的・継続的な支援活動を展開したが、ボランティア休暇等を利用した継続的なボランティアの参加、物資・機材の調達、ボランティアの活動拠点の提供等において、これら組織の持つ人的、物的資源はボランティア団体にとって貴重な資源となった。
今後、ボランティア団体、企業、労働組合、協同組合等の相互交流、協働関係を深めるとともに、大規模災害を想定し、ボランティア、住民、行政等に対する窓口及びネットワークの事務局機能、活動を行う際の資源調達、役割分担、協働の研修等を各地域で行う必要がある。また、ボランティア、ボランティアリーダー、ボランティアコーディネーター等の人的資源及びそれぞれが持つ活動拠点、資材などの社会資源についての基礎的情報の登録、共有も進める必要がある。
7. 救援物資については、より効果的な支援となるよう、方法を抜本的に改める必要がある。そのためには、市民一人ひとりの理解と協力が必要不可欠である
物資の提供は、今後も重要な柱として行われる必要があるが、一方、物資による支援方法には多くの問題点があり、改善を要する。
今回、非常に多くのボランティアが現地での救援物資仕分けに従事したが、これらのボランティアの労力は、できるだけ直接の支援活動に振り向けられるほうが本来は望ましい。また、すでに現地で不要となった物資が大量に寄せられる、在宅での生活者に充分な物資が行き渡らない等、様々な問題も生じた。
これらの問題は、相当の混乱がある中で、現地が直接物資の調達・受入れ・配送等の調整をせざるを得なかったために生じた無理からぬものである。基本的には、物資の支援システム全体を抜本的に改め、現地に負担をかけない仕組みづくりが必要である。
ひとつは、物資配送のルールをつくることである。多種多様な救援物資を一梱包とし送ってくるケースがあったが、その仕分けには非常に多くの人手が必要となった。物資は、薬品、衣類、日用品の別にできるだけ同一のものごとに梱包するとともに、さらに、梱包を開かなくても予め決められた包装の色で識別できるなどのルールづくりが必要である。
また、現地ニーズの受入れ窓口、情報の集約、物資の受入れ、配送の手配等の拠点となる「物資支援センター(仮称)」を近隣の拠点地域に設ける等、物資の情報の集約、配送に関するシステムをつくる必要がある。
物資が、学校、職場、近隣自治会などで、前述のような一定のルールに従って予め仕分けされ、それらがさらに自治体、都道府県等の広域で集約されること、そのうえで物資支援センターに集約され、現地の必要な場所に、必要な時に配送されるような仕組みづくりの検討が必要である。
8.行政は、ライフラインの復興、行政の施策・動向等の情報を、ボランティア団体に対して的確に伝えることが必要である
ボランティア団体が社会的に意義のある活動を継続的に展開するためには、優れた資質を持つ有給職員の雇用、様々な分野の専門家の参画、連絡事務所やたまり場の確保・維持など、相当の経費が必要となる。しかし、ボランティア活動が無償、非営利の行為であることから、市民の間にはボランティア団体の維持・運営についての誤解が根強く、ボランティア団体の運営経費の必要性に対する認識が薄い。また、助成が行われる場合も、直接の活動に要する経費に対してのみ行われ、その活動を行うための人件費や管理運営経費は除外されることが多い。
市民、民間助成財団、企業、共同募金、公共的基金、行政等による支援は一層強化される必要があるが、支援が行われる場合には、運営に要する経費についても適切に考慮されることが必要である。
また、支援に応えるために、ボランティア団体としては事業の適正な実施、効率的な運営に努めると同時に、必要に応じて情報公開をすることは当然である。
9. 行政の防災計画には、ボランティア、ボランティア団体との協働の体制づくり、支援計画を明確に盛り込む必要がある
行政の防災計画には、ボランティア、ボランティア団体、民間団体との協働体制づくり、活動が行われやすい支援のあり方等を明確に盛り込む必要がある。その際は、ボランティア団体の活動拠点等についても考慮する必要がある。
なお、行政は、自らが直接ボランティアの窓口となり、ボランティアの受付、仕事の割り振りを行うよりは、直接のボランティアとの関係はボランティア団体に委ねることとし、むしろ、ボランティア団体との協力関係をつくり、必要な調整を行う仕組みを設けることが本来的に重要である。
10. 行政側にボランティア団体との窓口となるコーディネーターを設置し、ボランティア団体との協働活動が進むよう、行政各部署間との調整を行う必要がある
行政はボランティア団体に対する行政側の窓口となる行政のコーディネーターを明確にし、ボランティア団体との情報交換、協議等を行うことが必要である。この過程で行政、ボランティア団体双方からだされた提案、調整案件等について、行政側のコーディネーターが行政各部所間の必要な調整を行う必要がある。
ボランティア団体と行政との連携・協力のあり方
11. 有効なボランティア活動の展開には相当の経費がかかることへの理解と、それに対する様々な社会的支援が必要である
継続的、効果的な支援活動展開には、訓練された専門職員、拠点や本部機能が必要となる。それらの職員の派遣・滞在費用、保険料、現地と本部の日常的な通信・連絡費、現地拠点維持に係る諸経費、長期間中心的に活動するボランティアリーダーへの若干の活動費の補助等、活動には多大な経費がかかっている。特に、今回のように大規模災害では2〜3か月の継続的な活動が必要となるが、活動拠点の維持に関わる費用の負担、莫大な通信費の負担等、もともと財政的基盤の弱いボランティア団体は財政的な窮状を訴えており、計画された本来事業の運営を取り止めざるを得ない等の状況が起きている。
ボランティア団体やボランティアによる支援活動に対しては、本来、市民一人ひとりの共感と連帯意識にもとづく社会的な支援が行われることが望ましい。しかし、ボランティア活動の展開・組織化に相当の経費がかかることについての理解はまだ充分でない。市民の理解を求めながら、ボランティア団体の活動経費についても募金、寄附等をつのるなど、財源調達における改善が必要である。
12. 継続的な支援活動を展開する場合、ボランティアコーディネーター等の適切な交代・休息等が必要であり、そのためのボランティア団体同士の連携、後方支援が重要である
今回のように支援活動が長期に及ぶ場合、ボランティアコーディネーター等が適切に交代・休息できる体制が不可欠である。コーディネーター等は、現地に長くいる中で、自分の能力を越えた現実や被災者の様々なニーズに直面することで、多大なストレスを受け、疲労が蓄積する。適切な交代、休息がなければ、判断力の低下、無力感などにみまわれ、結局は活動の質を低下させることとなる。1週間で現地と交代する、少なくとも3日に1回は睡眠、入浴などが充分にとれるようにするなどの体制づくりが必要である。また、このようなローテーションができるためには、ボランティア団体同士の協力と後方支援が必要である。
13. 支援活動展開には、ボランティア団体への後方支援体制が必要である。身近な地域でできる継続的な後方支援の輪を広げ、活動を支える市民のすそ野が広がる必要がある
ある県では、県内のボランティア団体、企業、労働組合、協同組合、マスコミ等で支援委員会を組織化し、現地にいったボランティアからの報告会、これから派遣されるボランティアの事前学習、支援物資の調達・仕分け・配送、活動資金の支援募金活動、県民へのピーアール活動などを展開していった。NGOも、現地での活動を展開する一方、各地で共同の報告会、シンポジウムなどを開催した。
実際、ボランティアや職員の派遣、情報、資金、活動資源の調達などを行う後方支援機能・体制がしっかりしていなければ現地の活動は継続できない。わが国では、まだまだ後方支援活動の重要性が充分に理解されているとはいいがたく、地道な後方支援活動への参画は乏しい。市民の理解の輪を広げる取組を、身近な地域の中で、ボランティア団体、市民が一緒につくっていくことが必要である。
14. ボランティアが安心して活動できるようボランティア保険の充実が必要である
今回、余震による被災が懸念される中で多くのボランティアが活躍した。これらボランティアが少しでも安心して活動できるよう、緊急に従来のボランティア保険を一部拡充し、天災担保付きのボランティア保険が開発されたのは大きな意味を持った。今後も大規模災害時には、速やかに同種の保険が適用されるよう、ボランティア保険の登録をコンピュータで管理し、災害時に活動する時には速やかに天災による事故に対応できるようにするなど、運用改善を図る必要がある。
また、これらの保険料はボランティア自らが負担することが多いが、止むにやまれぬ気持ちで行われる活動であることから、市民の連帯により支える仕組みも必要である。
15. 被災地には現在も様々な支援ニーズがある。身近でできる活動を始め息の長い支援活動を行う必要がある
避難所にはいまでも市民が生活し、その多くは高齢者等である。仮設住宅に移った高齢者、障害者であっても、住宅のトイレ、風呂等が狭隘なこともあり様々な生活支援を必要としている。また、かつてのコミュニティが崩壊したため、従前の地域での相互扶助、交流などがなくなり、孤立・孤独などの問題が生じている。
このような生活課題にたいして、日常的な生活支援、話相手などの活動、生活環境の美化など生活に潤いをもたらす活動等、ボランティアらしい取りくみが求められており、息の長い支援活動を行う必要がある。
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